中高年がかかりやすい病気②糖尿病

生活習慣病と言われるものの中に「糖尿病」があるのはご存じのことと思います。

「糖尿病」は甘い物の摂りすぎと勘違いされている人も中にはいるのではないでしょうか?

実際は甘い物の過剰摂取でなる病気ではありません。では果たしてどんな病気なのか知っているようで知らない人のために「糖尿病」についてお話していきます。

その前に生活習慣病と呼ばれる病気にはどんなものがあるのか、カンタンにご説明します。

生活習慣病とは

1996年頃から使われるようになった用語で以前は成人病といわれた、脳卒中、がん、心臓病を、生活習慣という要素に着目して捉え直した用語。

食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称です。日本人の死因の上位を占める、がんや心臓病、脳卒中は、生活習慣病に含まれます。

生活習慣病と言われるものは、高血圧、脂質異常症、狭心症・心筋梗塞などの心臓病、脳血管障害・脳卒中、高尿酸血症などがあります。

ここでは「糖尿病」についてご説明します。

糖尿病ってどんな病気?

糖尿病は、インスリンが十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖という糖(血糖)が増えてしまう病気。インスリンは膵臓から出るホルモンであり、血糖を一定の範囲におさめる働きを担っています。

血糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままで放置されると、血管が傷つき、将来的に心臓病や、失明、腎不全、足の切断といった、より合併症を起こすことになったり、著しく高い血糖は、それだけで昏睡などをおこすことがあります。

血糖値とインスリンの関係

食事をすると、栄養素の一部は糖となって腸から吸収され、寝ている間など、食事をしない時間が続くときには、主に肝臓により糖が作られています。糖はからだにとって大切であり、食事をしたときも、食べていないときも、常に血液中を流れています。糖は血液の流れに乗って、からだのあらゆる臓器や組織へめぐります。

血液中をただよい、筋肉などの細胞までたどり着いた糖は、同じく血液中に流れていたインスリンの助けを借りて細胞に取り込まれ、私たちのからだが活動するためのエネルギーの源となります。

インスリンは細胞のドアを開ける鍵のような役割を果たします。インスリンの働きによって、細胞の前まで到着した糖はすみやかに細胞の中に入り、糖は血液中にあふれることなく、血液中の糖の濃度は一定の範囲におさまっています。

しかし、糖尿病になるとインスリンが十分に働かず、血糖をうまく細胞に取り込めなくなるため、血液中に糖があふれてしまいます。

原因

  1. インスリン分泌低下:膵臓の機能の低下により、十分なインスリンを作れなくなってしまう状態。細胞のドアを開けるための鍵が不足しているので、糖が中に入れず、血液中にあふれてしまいます。
  2. インスリン抵抗性:インスリンは十分な量が作られているけれども、効果を発揮できない状態。運動不足や食べ過ぎが原因で肥満になると、インスリンが働きにくくなります。鍵であるインスリンがたくさんあっても、細胞のドアのたてつけが悪く、開けることができません。この場合も、血液中に糖があふれてしまいます。

糖尿病ではこの2つが影響して、血糖値が高くなることで糖尿病と診断されます。

糖尿病の症状

症状がなく糖尿病になっていることに気がつかないことがあります。糖尿病では、かなり血糖値が高くなければ症状が現れません。

高血糖における症状は、

  • 喉が渇く、水をよく飲む
  • 尿の回数が増える
  • 体重が減る
  • 疲れやすくなる

などです。

上記のような自覚症状があった場合、病院での受診をおススメします。

糖尿病の種類

糖尿病は、その成りたちによっていくつかの種類に分類されますが、大きく分けると「1型糖尿病」、「2型糖尿病」、「その他の特定の機序、疾患によるもの」、そして「妊娠糖尿病」があります。

1型糖尿病

1型糖尿病では、膵臓からインスリンがほとんど出なくなる(インスリン分泌低下)ことにより血糖値が高くなり、生きていくために、注射でインスリンを補う治療が必須となります

2型糖尿病

2型糖尿病は、インスリンが出にくくなったり(インスリン分泌低下)、インスリンが効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することによって血糖値が高くなります。2型糖尿病となる原因は、遺伝的な影響に加えて、食べ過ぎ運動不足肥満などの環境的な影響があるといわれています。

すべての2型糖尿病患者の方に生活習慣の問題があるわけではありませんが、血糖値を望ましい範囲にコントロールするためには、食事や運動習慣の見直しがとても重要です。飲み薬や注射なども必要に応じて利用します。

1型糖尿病2型糖尿病
発症年齢若年に多い
何歳でも発症する
中高年に多い
症状急激に症状が出て糖尿病になる症状が現れないことがあり
気が付かないうちに
進行する
体型やせ型に多い肥満型に多い
原因膵臓でβ細胞が壊れインスリンが出ないインスリンが出にくくなったり、
インスリンが効きにくくなって
血糖値が高くなる
治療インスリン注射食事療法・運動・飲み薬
場合によってはインスリン注射を使用
国立国際医療センター:糖尿病情報センター参照

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めてわかった、まだ糖尿病には至っていない血糖の上昇をいいます。

糖は赤ちゃんの栄養となるので、多すぎても少なすぎても成長に影響を及ぼすことがあります。お腹の赤ちゃんに十分な栄養を与えながら、細やかな血糖管理をすることが大切です。

妊娠中は絶えず赤ちゃんに栄養を与えているため、お腹が空いているときの血糖値は、妊娠していないときと比べて低くなる一方、胎盤からでるホルモンの影響でインスリンが効きにくくなり、食後の血糖値は上がりやすくなります。

多くの場合、高い血糖値は出産のあとに戻りますが、妊娠糖尿病を経験した方は将来糖尿病になりやすいといわれています。

糖尿病の治療

糖尿病とは、慢性的に血糖値が高くなる病気です。糖値を良い値に保つ事が治療の基本。まずは血糖値をコントロールし、合併症を防ぎ健康寿命を保つためには血糖値の安定が重大課題です。

治療には、薬やインスリン注射の他に食事療法や運動療法も併用するのがベスト。では、どんな食事が良いのか、どんな運動がよいのかをお話します。

糖尿病の食事

食事によって、糖がからだに取り込まれるため糖の量やエネルギーのバランスなどを調整するのが食事療法です。それにはコツがあり、毎日の心がけが必要になります。

食事のコツ

  • ゆっくり、よくかんで食べる。
  • 朝食、昼食、夕食を規則正しく食べる。
  • バランスよく食べる。
  • 食事は腹八分目でストップしておく。
  • 夜遅く、寝る前には食べない。

うまく続けられないことも、もちろんあります。そんなときは、時々、好きなものを食べてもよいご褒美の日を作ってもよいでしょう。ただし、1日の摂取カロリーは1400~1700カロリーの範囲がベストです。

バランスの取れた食事

エネルギーのもととなる三大栄養素は、炭水化物・たんぱく質・脂質です。

  • 炭水化物:ブドウ糖となり、私たちのからだのエネルギー源
  • たんぱく質:筋肉や臓器などからだを形作る重要な栄養素
  • 脂質:からだのエネルギーとなり、ホルモン、細胞などを 作る材料

具体的には、主食(ごはん、パン、めん類など)、良質なたんぱく質を含むおかず(魚類、大豆製品、卵、肉類など)、野菜、きのこ、こんにゃく、海藻、乳製品(牛乳、ヨーグルトなど)、果物など1日の中でいろいろな食品を組み合わせて摂取することが良いでしょう。

間食・アルコール

朝・昼・晩3食以外に間食すると体重も増えたり血糖値のコントロールが難しくなりますが、まったく間食をしないのも辛いので医師と相談して適量を決めるのが良いです。

間食の注意点
  • お菓子を買うときは、栄養成分表示(エネルギー等)を見て選ぶ。
  • だらだら食べずに、量を決める(80kcal前後など)。
  • ミニサイズを選ぶ等、個包装に分かれた食べきりサイズにする。
  • 少量を味わって、ゆっくり食べる。
  • 夕食後は避け、日中に食べる。
  • 間食後は運動をする
アルコールの注意点

少量のアルコールは動脈硬化によいと言われますが、飲み過ぎは肝臓病や癌などにつながります。飲酒に合わせておつまみを食べると血糖値が上がる人がいる一方で、飲酒後には、肝臓に負担がかかるので逆に低血糖になることもあります。
飲み過ぎは、血糖のバランスを崩してしまうので、危険です。

糖尿病を持っている方でも、一般的に許される量は1日アルコールとして25g程度まで(日本酒1合、ビール中瓶1本500ml程度)されており、休肝日をつくりましょう。

減塩

糖尿病のある方は、高血圧の予防のために、減塩が大切。(男性1日7.5g未満、女性1日6.5g未満)

(参照:厚生労働省:日本人の食事摂取基準2020年版)

高血圧がある場合は、さらに食塩摂取量を減らしてください。(1日6g未満)

食塩の摂取が多いと血圧が上がり、腎臓に負担がかかり、動脈硬化(血管の老化)が進んで脳梗塞・心筋梗塞などが起きやすいと言われています。

減塩の工夫
  • 昆布・かつおなどの食材の旨み
  • 味にアクセントをつける(香辛料・酸味・香味野菜)
  • 醤油や塩はかけるのではなく、小皿にとり、つけるようにする
  • だし割醤油や減塩調味料を利用する
  • 塩蔵品、漬物、干物、佃煮等は控える
  • 汁物は具を多くして汁を減らす、器を小さくする、麺つゆは飲まない

上記のような注意をしながら美味しく減塩に取組みましょう。

運動療法と予防

適度な運動習慣は糖尿病に限らずとも健康寿命をのばすために効果があります。

有酸素運動により筋肉への血流が増えると、ブドウ糖がどんどん細胞の中に取り込まれ、インスリンの効果が高まり、血糖値は低下し、また、筋力トレーニングによって筋肉が増えることでも、インスリンの効果が高まり、血糖値は下がりやすくなります。ただし、運動をやめてしまうとその効果は3日程度で失われます。

からだを動かすことで、糖尿病だけでなく肥満や生活習慣病、循環器疾患やがん、加齢に伴う生活機能の低下、認知症などのリスク等の予防にもなります。

運動には有酸素運動と筋力トレーニングがあります。

有酸素運動

ウォーキングでは、1回15から30分間、1日2回。日常生活での歩行と合わせると、ウォーキングでの運動療法は一日1万歩程度が目安です。

筋力トレーニング

足や腰、背中の大きな筋肉を中心に、全身の筋肉を使って週2から3回の筋力トレーニング(1セット10回程度)を行うことが良いです。しかし、糖尿病の状態が悪い方やご高齢の方が、血圧が上がるような強度の高い筋力トレーニングを行うと、かえって血管や心臓の負担になることがあります。どのくらいの強度が適切か、運動を始める前に必ず担当の先生に相談することをおすすめします。

運動のポイント
  • 少なくとも週3日、できれば毎日
  • 1回につき20から60分、1週間に150分以上
  • 1日の間で、いつ行っても構いません。
  • 食後に血糖値が高くなるような方は、食後1~2時間頃に運動を行うとよい。
  • 1型糖尿病の方、血糖値を下げる薬を使っている方は、低血糖にならないように注意。

※ウォーキングをする際、背筋をのばして、やや大股で、膝を伸ばして踵(かかと)から着地するように軽く腕を振って、少し汗ばむ程度で無理せず続けられる程度が良いでしょう。

※筋力トレーニングでも壁などに手をついて、両足で立った状態で踵(かかと)を上げて、
ゆっくり踵をおろす。1日の回数の目安10から20回(出来る範囲で)×2から3セット

※目で見てわかるように歩数計やスマホのアプリを活用しましょう。

  • 歩数計は、日常生活の運動量の目安となります。
  • 脈拍数や運動強度、エネルギー消費量などをモニタリングすることができるスマートフォンのアプリもあります。
高齢者の方には

家事、買い物や散歩、ラジオ体操などを行い日常の身体活動を増やし、軽いジョギング、ラジオ体操、自転車、水泳など全身を使った有酸素運動を無理のない範囲で行いましょう。軽い筋力トレーニングも有効です。

運動の注意

運動することによって食欲が増し、たくさん食べてしまうと糖尿病の状態を悪化させることになりかねません。また、食事療法をきちんと行わなければ運動療法の効果は不十分となります。運動療法は食事療法を補助し、2つを合わせることで治療効果が高まります。

低血糖を予防

インスリンやSU薬を用いている人は低血糖に注意が必要です。運動をする時は低血糖の症状に注意し、ブドウ糖(飴)や軽食を準備しましょう。

1型糖尿病の方では、血糖値をこまめに測ってください。

糖尿病の方は、足を大事にすることが特に大切です。運動の時は、足に合った履き慣れた靴を使いましょう。

運動をする前には準備体操

中等度(ややきついと感じる程度)以上の運動療法を行う際には準備運動、整理運動をしましょう。また、夏の炎天下や冬の寒冷時に無理をして運動することは避けてください。屋外で運動ができない場合は、屋内でできる運動を行うと良いです。運動中は、こまめに水分補給をし、脱水にならないようにすることも大切です。

運動を禁止する、あるいは制限した方がよい状況

糖尿病のある方は、運動をはじめる前に主治医に相談しましょう。

合併症をお持ちの方や、血糖のコントロールが不十分な方では、運動を控えた方がよい時があります。

運動を禁止、または制限した方がよい状況

  • 血糖値が高いとき 空腹時血糖≧250mg/dL
  • 脱水のあるとき
  • 感染症があるとき
  • 自律神経障害が進んでいるとき
  • 網膜症が進んでいるとき、眼底出血があるとき
  • 腎臓の病気が進んでいるとき
  • 足に進行した潰瘍、壊疽(えそ)があるとき
  • 重い心臓病(心筋梗塞など)、肺の病気があるとき
  • 骨、関節の病気をお持ちの方

上記にあてはまる方は担当医師に相談してください。

日常生活の身体活動量を増やす

毎日仕事で忙しい方、家事でまとまった時間が取れない方、運動をしたいと思っても、なかなか難しいと思います。そのような方は、毎日の身体活動量を少しだけ増やすことからはじめましょう。日常生活動作(通勤・通学、掃除・洗濯、買い物など)で消費されるエネルギー量はNEAT(non exercise activity thermogenesis: ニート)と呼ばれています。

「階段をのぼる」動作はふつうに歩く動作よりかなり強度の高い身体活動になります。エスカレーターやエレベーターを使わずに、自分の足で階段の「のぼり・くだり」をすることはよい「運動」になります。NEATを高めることによって肥満が改善にもなり、ジムや運動場に行かなくても、毎日の少しの工夫で身体活動を増やすことができます。

日常生活でからだを動かすことは糖尿病の人には治療、まだ糖尿病ではないが心配な人には予防にもなります。大切なからだ、いつまでも元気で長い生きして好きなことをしたいですよね。

寝たきりや認知症にならないように日頃から適度な運動と食事に注意していつまでも健康でいたいものですね。